目次

・新たな挑戦のための決断。譲渡という選択

・働き方を見つめ直し、「理想の診療」を目指した開業決意

・お互いに「承継後の姿」を描けたことが成功の鍵に

・承継後の現在。新たな1歩とそれぞれの挑戦


《 売り手:竹本先生 》

新たな挑戦のための決断。譲渡という選択

―これまでの獣医師としての歩みを教えてください

大阪で臨床経験を積んだ後、神戸の皮膚科専門病院で代理院長を務めました。
その職務をこなすなかで、自分でも病院を経営してみたいという気持ちが強くなったことが、開業を決意したきっかけです。
かもめペットクリニックを開業してからは、「飼い主さんのお話をよく聞き、治療方針を明確に伝えること」を何よりも大切にしてきました。対話を通じて飼い主さんの不安を取り除き、安心して診療を受けていただけるように心がけてきました。

―業績は右肩上がりで順調に進んできたと思いますが、そのなかで譲渡を決断した理由を教えてください。

きっかけは夫の転職です。私はこのまま病院を続けても良いと思いましたが、以前から興味のあった往診での診療に挑戦したい気持ちもあり、新たな一歩を踏み出す良いきっかけかなと思い、譲渡を進めてみることにしました。
考え始めたのは夫の転職のタイミングでしたが、私自身はもちろん、飼い主さんやスタッフさんなど、関わるすべての人にとって重大な決断ですので、買い手さんを探すことを決断するまでには4ヶ月ほどじっくり悩みました。

―譲渡することをお知り合いの獣医師さんや周りの方にお伝えした時はどのような反応をされましたか?

周りの反応は大きく2つに分かれました。
ひとつは「どうして今譲渡するの?もったいない」と驚く声や惜しむ声をいただきました。
もう一方では、思い切った決断を肯定的に捉え、羨望の眼差しを向ける方もいました。譲渡するのは年配の院長先生に多い印象なので、同世代の開業医の方から、「新しい挑戦を理由に40代で辞める決断をできるなんて羨ましい!」と言ってもらえたこともありました。

―譲渡を決断した時「譲渡後はこうなっていたい」「このような事が叶う譲渡にしたい」という理想はありましたか?

1番は、スタッフさんと患者さんへの負担が最小で、病院がスムーズに引き継がれることです。その点で言うと、稗田先生は人柄に安心感があり、不安はほとんどありませんでした。
今日、久しぶりに(※)病院を訪ねたら、以前より院内の備品の配置が綺麗になっていました。スタッフさんと協力して行ってくれたのかなと、とても嬉しく思いました。

(※)インタビュー実施日は、竹本先生が最後に病院に訪れてから10日後


《 買い手:稗田先生 》

働き方を見つめ直し、「理想の診療」を目指した開業決意

―ご経歴を教えてください

獣医師免許を取得した後は、4年ほど牛の臨床に携わっていました。その後、岡山にある1.5次の動物病院で経験を積みました。
大動物臨床から小動物臨床に移ろうと思った理由として、農家さんのところへ伺うたびに道に迷ってしまうほどの方向音痴でして…自分にはあまり向いていないのではと感じていました。それから動物病院へ転職しようと思ったのですが、僕自身猫を飼ったことがなく、猫の飼い主さんの気持ちが分からないということが不安でした。しかし、ある時牛舎で猫を拾い、飼い始めたことがきっかけで飼い主さんの気持ちを知ることができ、「これはもう、やらない理由がない!」と小動物臨床へのキャリアチェンジを決めました。

―開業しようと思ったきっかけを教えてください

子供が生まれてから2ヶ月育休をいただいた時、自分の働き方を見直しました。勤務医として働いていると、飼い主さんとお話するのに限界があることを知りました。先ほども述べた通り、僕の理念として飼い主さんの気持ちに寄り添える先生になりたいと思っていたのに…このままでいいのかと疑問に思うようになりました。
そして同時に、子供との時間も大切にしていきたいと考えるようになりました。例えば、小学生に育った子供の運動会や学校行事に行けるなど、そのような父親であるにはどうすれば良いかと模索しました。
診療面でも、生活面でも、もっと自由な働き方をしたいと思い、その解決策として開業を考えました。

―開業しようと決めた後「新規開業」ではなく「承継開業」を選択した理由を教えてください

開業を考えた時、新規開業では例えば棚の位置からWi-Fiの設定まで、院内の設計を事細かに決めないといけないですし、医療機器のリストアップも、取引先の業者さんを決めることも、全部が全部ゼロから自分で決めていかないといけないので、腰が引けていました。僕自身、段取りを考えることや書類の提出など事務的なことも苦手でしたので、ある程度から引き継げることと、アドバイザーさんにサポートいただける点で承継の方が僕に合っているのかなと思いました。
その他に、承継開業だと地域の顧客の需要を確実にキャッチしていることが数字から明らかなので、目標とする集客に対して未達に終わるリスクを低減できると思い、挑戦を決心することができました。

―開業するにあたり、どのような病院像を目指しましたか?

飼い主さんとの会話を大事にし、飼い主さんの気持ちに寄り添う診療をしていきたいと思っています。そこは竹本先生が大事にしてきた価値観に強く共感しています。

―なぜかもめペットクリニックに見学に行きたいと思ったのですか?

A-BRAINさんの担当の方と最初にお話してからしばらくして、「譲渡希望の病院を紹介します」というご連絡が届きました。そこで兵庫県にある病院が後継者を探していると知りました。紹介をしていただき、売上高や規模感、HPも拝見したところ自分が目指していたものと合っていた為、見学に行こうと決めました。
その他に、岡山での開業も考えていたのですが、岡山は人口が減っていて不安が大きかったです。動物病院は車で来られる方が多いので、ご年配の方が免許を返納したら気軽に来院や通院するということがかなり難しくなると思うんですよ。そのため、人口減少が少ないとか、お子さんのいるお若いご夫婦が多い場所のほうが、継続的なお付き合いができると思いました。明石市は育児関連の支援も手厚く、先に述べたような地域に当てはまり、何より自分自身も子育て中なので、開業のために引っ越すには良い地域だと考えました。
こんな風に真面目なことを言ってますが、実は「神戸の近くに住んでるって、なんかカッコ良くない?」という、少し軽薄な動機もあります(笑)
いずれにせよ、あらゆる面で僕の希望にマッチしていたことは間違いないですね。

竹本先生×稗田先生

お互いに「承継後の姿」を描けたことが成功の鍵に

―初めてお会いした時のお互いの印象を教えてください

竹本先生: 稗田先生は物腰やわらかく、安心感がありました。

稗田先生:もし飼い主として竹本先生にお会いしたら、悩みを聞いてくれそうだなと思いました。第一印象でそのように思わせる先生は多くはないので、僕もそのような、信頼される雰囲気を作っていきたいと思いました。

―トップ面談が1件で決まったとの事で順調にお話が進んだ印象ですが、稗田先生を魅力に思った点、この人だと思った決め手を教えてください

竹本先生:不安な点がないというのが大きかったです。承継するうえで心配な部分があると安心して承継できないと思いますが、稗田先生に関しては全く不安はありませんでした。お話した時に、承継後の病院で稗田先生がスタッフさんや患者さんと打ち解けているイメージができたのも、大きな決め手になりました。

―かもめペットクリニックを引き継ごうと思った決め手を教えてください

稗田先生:僕も開業後をイメージできたというのが大きかったです。竹本先生と診療方針が似ていたので、患者さんの層も合っていると感じました。
実際に承継が決まってからスタッフさんとのやり取りを始めましたが、予想通り自然に溶け込むことができ、院の空気が合うと改めて感じています。

―交渉はスムーズにいきましたか?

竹本先生: 全体的にスムーズにいったと思います。

稗田先生: 竹本先生とのやり取りはスムーズにいったと思いますが、僕は一度融資の審査に落ちてしまいました。そのときはどうしようか焦りました。

竹本先生: 私は、稗田先生なら大丈夫と思っていましたよ。(笑)

―承継開業における金融機関との連携で、重要だと感じた点は何ですか?

稗田先生:過去に動物病院の事業承継の取り扱い経験がある金融機関さんや、その支店は審査ハードルが下がりやすい印象がありました。
飼い主さんと現金のやり取りが多いと想定される場合には、病院の近くに支店がある銀行を選ぶと、お金の管理が楽になるのでおすすめです。

承継後の現在 ー 新たな1歩とそれぞれの挑戦

―病院の受け渡しが終わった今の素直な気持ちをお聞かせください

竹本先生:ほっと落ち着くかなと思っていたのですが、まだふわふわしています。数日間の長期休暇をもらっているかのような気持ちで、辞めた実感はまだほとんどありません。これから実感が湧いてくるのかなと思います。

稗田先生:承継前は不安半分、楽しみ半分でしたが、今は楽しみの方が大きいです。
経営者として単価は大事ですが、飼い主さんの気持ちを考えるとお財布に優しい方が良いし…など折り合いをつける作業を繰り返すのが楽しいです。不安があってもまずは、楽しみながら慣れることに集中しようと思っています。

―これから関東にご転居される予定と伺っていますが、何をして過ごすのか、これからの予定を教えてください

竹本先生:まだバタバタしていくと思います。
これからすぐに車1台で回る往診の開業を進めていくと思います。往診については2026年2月頃には始めたい(インタビュー実施当日から3ヶ月半後)と思っているのでゆっくりお休みするという感じはないです。

―承継から10日ですが現在の滑り出しはいかがですか?

稗田先生:まだ準備段階という感じです。
毎日の売上の写真を撮って、寝る前に明日はこうしようと計画を毎日考えています。また、今は余裕があるので病院を使いやすいように模様替えをしています。そこで感じたのは新規開業と異なり、スタッフさんの動きが完成されていることです。スタッフさんにすごく支えられながら病院を運営することができています。

―プライベートと仕事の両立を可能にするために、今後どのような病院作りをしていきたいですか?

稗田先生:子供のこともあるので、日曜日はお休みにしたいと思っています。その間も飼い主さんとコミュニケーションがとれるような施策を実行していく予定です。それを行うにも、まずは飼い主さんと信頼関係を築くことが大切だと思いますし、まだ準備段階だと捉えています。休診日も少しでも不安を払拭できるように、今までより一層、飼い主さんとのコミュニケーションを大切にする意識を持ちたいです。

―A-BRAINのご支援はどのように役立ちましたか?

竹本先生:想定よりずっと早く良い買い手さんに出会えたと思います。自力では難しいマッチングを支えてくれたことはすごく助けになりました。ありがとうございます。

稗田先生:書類の準備や届出の期限など、何も分からない状態だったので、本当に助かりました。また、竹本先生もおっしゃる通り、僕も「かもめペットクリニックが承継先を探している」なんて、自分1人で知ることはなかったと思います。ホームページに載るような情報でもありませんし、自分だけでは絶対にたどり着けなかったはずです。
A-BRAINさんにご紹介・ご支援していただいたからこそ今回の承継が実現していると思います。

◎ メッセージ ◎

―譲渡を検討されている院長先生へ

竹本先生

譲渡をお考えの方はそれぞれの事情があると思いますが、譲渡を決めた時は、M&A仲介の担当の方や承継される候補の先生とよく話し合い、関係性を見極めてほしいと思います。承継して終わりではなく、お相手の先生とのご縁は続いていくと思うので、安心して託せる相手と出会えれば承継後も心配なく過ごせると思います。

―これから開業をお考えの獣医師の先生へ

稗田先生

新規開業を考える際、まず頭に浮かぶのは「リスク」だと思います。
その点、承継開業は資金難や集患の失敗などのリスクを大きく抑えられる方法だと思います。もちろん、新規開業に比べて初期コストがやや高くなる可能性はありますが、それは売上や実績がすでにあるというリスク回避分の価値だと考えています。
新規開業にも承継開業にも、それぞれメリット・デメリットはありますが、一度承継という選択肢を検討したら、専門の方に相談してみる価値は十分にあると思います。
話を聞いてみるだけでも、大きな気付きが得られるはずです。


今回のインタビューを通して、お二人がそれぞれの価値観を大切にしながら、「自分らしい働き方を選べる時代になった」という変化を強く実感いたしました。

承継に向き合うなか、お二人の患者さんへの誠実な思いと、より良い医療体制を未来へ繋げようとする確かな意思が伝わってきます。

仕事と人生を考えた時、同じような悩みを持つ先生方の背中を押すきっかけになれば幸いです。
そして、新しいかもめの航海が、これからも穏やかで豊かなものであるように願っています。