【小さな病院だからこそ】ご病気をきっかけに、“ 町の獣医さん ” が次の世代にバトンを繋ぐまで

宗方 秀樹 院長 × 森本 修 院長
アポロきしのさと動物病院大阪府大阪市西成区潮路1-9-28
目次
・1番は「患者さんのために」。事業譲渡を考え始めた背景
・新規か承継かこだわらない。森本先生が大切にしたこと
・「この人なら」と思えた出会いと、承継を決めた理由
・承継後のこれから
《 売り手:宗方先生 》
1番は「患者さんのために」。事業譲渡を考え始めた背景
―これまでのご経歴を教えてください
山口大学卒業後、大阪で家畜防疫に携わり、その後は広島で12年間、酪農業と大動物診療に従事してきました。
2002年1月に小動物臨床へ転身し、しばらくして西成区(大阪府)にアポロきしのさと動物病院を開業しました。
―アポロきしのさと動物病院を開業してからはどのような病院をつくっていこうと思っていましたか?
当時からずっと、気軽に来てもらえるように、リーズナブルでアットホームな病院をつくっていきたいと思ってやってきました。
―数年前にご病気を患ったとお聞きしました。その当時、病院を続けていくことについてどのようにお考えでしたか?
病気を患ったことをきっかけに将来のことを考えるようになりました。自分に何かあったとき、患者さんに迷惑をかけてしまわないようにするには、どうしていくべきかと。
当時、解決策が見つかったわけではありませんでしたが、後継者もいなく、病院を大きくするつもりもなかったので、まずは自分のできる範囲のことを続けていくことだけを考えて復帰しました。
―譲渡という選択を知ったのはいつですか?
病気が分かったとき、業者の方から「病院を譲渡する」という仕組みがあることは聞いていました。
ただ、うちのような規模の病院が本当に譲渡の対象になるのかは分からず、買い手さんを見つけるのは難しいだろうなと思って、当時はそこまで真剣には考えていませんでした。
そのようななかで、偶然A-BRAINさんからご連絡をいただいたことがありました。その時もまだ譲渡するつもりはなかったのですが、後日また改めてお話しする機会をもらって、一度ちゃんと考えてみても良いのかもしれないと思うようになり、譲渡を選択肢として意識するようになりました。
―A-BRAINと先生が初めてコンタクトを取った際は、「譲渡は3年後くらい」とお話されていたと伺いました。譲渡の時期はどのように決めましたか?
自分の中で、引退の目安を75歳前後と考えていました。
明確な理由があって決めた数字というよりは、年齢的にそのくらいかなという感覚でした。
―買い手の先生に求めていたことは何かありましたか?
これからも長く病院を続けていってほしいという思いがありましたので、譲渡するのは若い先生が良いのかなと思っていました。
実際に買い手の方とやり取りが始まってからは、特に苦労したところはなく、むしろ譲渡できそうなチャンスが巡ってきたなという期待の気持ちの方が大きかったです。
《 買い手:森本先生 》
新規か承継かこだわらない。森本先生が大切にしたこと
―まずは、ご経歴を教えてください
帯広畜産大学卒業後、姫路市(兵庫県)・堺市(大阪府)など関西圏の動物病院で勤務医として経験を積みました。
―開業しようと思ったきっかけを教えてください
もともと、いつかは開業したいという気持ちがありました。
勤務医として働くなかで、次第に自分の理想とする診療や病院の在り方が明確になり、それを実現するために開業を意識するようになりました。
―開業しようと決めた後、「新規開業」ではなく「承継開業」を選択した理由を教えてください
一言で言うと「縁」ですね。
当初は新規開業を考えていましたが、テナント探しに行き詰まりを感じていました。そのようななか、動物臨床医学会で事業承継の話を聞いたことをきっかけに、思いのほか承継を望んでいる院長先生もいらっしゃるんだなと、承継に期待を持つようになりました。
そういうわけで、初めから承継で進めていこうと決めていたわけでなく、良いご縁にどちらで巡り会えるかというスタンスで進めていました。
―承継する病院は、どのような条件で探しましたか?
一人で診療を行うのに無理のない規模の病院を探していました。
僕自身、アットホームな病院をつくりたいという想いがあったので、病院の空気感や前院長の考え方も大切にしていました。
エリアについては、自宅から自転車で通勤できる距離が理想でした。地域に愛されている息の長い病院を目指すには、日々の通勤や生活とのバランスも含めて、無理なく続けられる環境が良いだろうと。
もちろんすべてが叶うわけではないので、自分から条件を細かく決めて探すというよりは、ある程度流れに身を任せていました。
宗方先生×森本先生
「この人なら」と思えた出会いと、承継を決めた理由
―初めてお会いした時のお互いの印象はいかがでしたか?
宗方先生:大柄の体格でしたが、物腰が柔らかそうで雰囲気が良かったです。
何人かの先生ともお会いしましたが、私の病院の雰囲気に合った方だなと思っていました。
森本先生:まさに僕の目指したいアットホームな病院を運営されていそうな、優しい感じの先生だなと思いました。
―何件かご見学があったと思いますが、森本先生に決めた理由を教えてください
宗方先生:うちの病院で頑張っていきたいというご意向があったので、やる気をもって病院を続けていってくれるだろうなと好印象でしたので決めました。
―アポロきしのさと動物病院を引き継ぐと決めた理由を教えてください
森本先生:通いやすい立地だったことは大きなポイントでした。
しかし、それよりも大きな理由は、飼い主さんから贈られた、以前飼われていた猫ちゃんの写真入りバッグが院内に飾られていたことです。宗方先生が地域を愛し、そして地域の方にもこの病院が本当に大切にされてきたんだなと感じました。
宗方先生のお人柄や、長年かけて築かれてきた病院全体の雰囲気に惹かれ、この病院の歴史がここで途絶えることなく、できることなら僕の手で引き継いでいきたいと思えたことが承継を決めた最大の理由です。
承継後のこれから
―事業譲渡契約書が締結されて、約1か月後には譲渡実行となります。今の素直な気持ちをお聞かせください。
宗方先生: ほっと、肩の荷が下りた気持ちもしますが、あと数週間で引退するのは寂しい気持ちもあります。引退後の生活は何をして過ごそうかという不安もありますし、楽しみ半分、悲しさ半分という感じです。
森本先生:自分でやっていく楽しみもありますが、初めての経験なので不安も大きいです。
今は、銀行とやり取りしたり、その他も開業準備があったりでバタバタしておりスタートラインに立つ前に焦っている状態です。
宗方先生: 森本先生のお話を聞いていると自分が開業したときを思い出します。私は、大動物から小動物に移って間もなく開業しました。「院長」という肩書がありますから、飼い主さんからはプロとしての仕事を求められるわけです。当初は毎日ドキドキしていましたし、診察室の裏で深呼吸して患者さんを迎えることもしばしばありました。今振り返ると、よくこれまで続いたなと思っています。
森本先生のなかで今は不安があると思いますが、いつか落ち着きますよ。
―宗方先生は譲渡後に何をして過ごされますか?
宗方先生:今年で73歳となりますが、正直なところ、年齢だけで考えると「引退するにはまだ早いかな」という気持ちもあります。
ただ、体のことを考えると、これまでと同じように働き続けるのは難しいと感じていますので、この決断に後悔はありません。
病気をしていなければ、ボランティアのような形で獣医療に関わることも考えられたのですが、思うように体が動かないこともあり、今は少し現実的ではないかなと思っています。
これからは無理をせず、趣味の時間や自分の時間を大切にして過ごしていきたいです。
―改めてお聞きしますが、森本先生はこれからどのような病院をつくっていきたいですか?
森本先生:先ほども述べた通り、アットホームな病院をつくっていきたいと思っています。
そのためにも、まずは僕自身も含めて、スタッフがリラックスして働けて、「この病院が好きだな」と思える環境を大切にしたいと考えています。
そうした雰囲気が自然と飼い主さんに伝わり、感じの良い病院だなと思ってもらえることが1つの目標です。
もちろん、医療技術についても研鑽を続けて、スタッフと一緒にレベルアップしていきながら、将来的には長く続く病院にしていきたいです。
―A-BRAINのご支援はどのように役立ちましたか?
宗方先生: フォローが非常に良いと思いました。いろいろな情報をいち早く教えていただき、安心して進めることができました。
初めてコンタクトを取った3年前に伝えた「3年後を目処に譲渡したい」という意向を覚えてくださっていて、本当に3年後に連絡が来たときは良い意味でびっくりしました。きちんと情報を残して院長先生に対応しており、顧客を信じて真摯に事業を動かしている会社なのだと感じました。
森本先生: 自分が出した条件に限らず、幅広く選択肢を提示してもらえたのがありがたかったです。実際にマッチングが進んでからも、事業計画など自分ひとりでは100%対応しきれない部分を相談したら、担当の方が丁寧に対応してくださいました。
最初から最後までしっかりサポートしていただいて、本当に助けていただいたと感じています。
◎ メッセージ ◎
―動物病院の事業承継について、院長としてどのような意義があるとお考えですか?
宗方先生:動物病院の事業承継は、院長である私以上に、患者さんのためになると思います。自分が病気をして急に亡くなることとなれば、患者さんは路頭に迷い、新しい病院を探して、さらに新しい病院ではこれまでの病状を説明しなくてはならない。そのような大変な思いをしなくて済むように、今ある病院を引き継いでいけるのは良いと強く実感しています。
―宗方先生から、譲渡を検討されている院長先生にメッセージをお願いします。
宗方先生:うちのような規模の小さな病院では事業承継は難しいだろうと、最初は半信半疑でした。しかし、実際に経験してみて、小さな病院でも承継は可能なんだと身をもって知ることができました。
引退を考えるなかで、わざわざ事業承継までしなくても良いのではと感じている先生もいらっしゃると思いますが、一度チャレンジしてみる価値はあると思います。間に入って調整してくれる事業者がいるというのも、とても心強かったです。
できるだけ長く仕事をしていたいという気持ちは、多くの先生が持っていると思いますが、ある程度のところで引退を考えるのも1つの選択肢だと、心の隅に覚えていただけたらなと思います。
―最後に森本先生から、これから開業を考えている獣医師の方にメッセージをお願いします。
森本先生:多くの先生にとって、開業は1つの夢だと思います。
新規開業であれば、間取りから設備まで、すべて自分の思い通りにスタートできるのは大きな魅力だと思います。
承継開業は既にある病院を引き継ぐ形になるので、自分の理想と少し違う部分もあるかもしれません。
ただ、飼育頭数が減って、病院の数が増え続ける、つまり競争が厳しくなっている今、ゼロから始めるのは、なかなかハードな選択肢ではないかと感じています。
その点、地域に根ざしてきた病院を引き継ぐことは、地に足のついたスタートが切れるという意味で、不確定要素を少し減らせる選択肢だと思います。
手厚いサポートを受けながら進められることも含めて、新しいものにこだわりすぎず、承継で良いご縁があれば、それはとても恵まれた機会なのではないでしょうか。
これから開業を考える先生には、「承継開業」も1つのスタート地点として、ぜひ視野に入れてみてほしいと思います。
担当者からのコメント

今回のお話を通して見えてきたのは、事業承継は続けていくための選択であるということでした。
病院を「閉じる」のではなく、「託す」という選択。
それは、院長自身の人生のためだけでなく、長年通い続けてきた患者さんや、地域にとっても大きな意味を持つ決断なのだと、改めて感じました。
アポロきしのさと動物病院が、これまで築いてきた信頼とあたたかさを大切にしながら、次の世代へとつながっていく。
今回のご縁が、アポロきしのさと動物病院に関わる全ての方にとって、「続いていく安心」につながっていくことを願っています。