若き院長が語る!動物病院の事業承継を選んだ理由と未来への展望

治すことにこだわる。承継で見つけた開業の形
―開業しようと思ったきっかけを教えてください
大学生の頃から、雇われる側の勤務医としてやっていくのか、スタッフを雇う側の経営者としてやっていくのかを考えていました。
そもそも獣医学科に在学していながら、獣医師として職業人生を全うするイメージがもてず、将来についてかなり悶々としていたのを覚えています。
卒業する時も進路を決めずに一度実家に戻り、仕事を始めたのは6月のことでした。その後、紆余曲折あって大きい病院に勤務した時、当時の院長先生の姿を見たことが私のなかで大きな転機となりました。「この院長先生のように病院を率いるリーダーとして活躍していきたい」と思うようになり、自分もそのような人生を歩むために開業を決意しました。
―開業するにあたって、どのような病院像を目指しましたか?
通い続けてもらう病院よりも、「この病院に行けば治る」という病院を目指しました。その思いは今も変わらず、常に治療のレベルを上げていくことを意識しています。
―なぜ、新規開業ではなく承継を選ばれたのですか?
これは私の主観ですが、新規開業は場所選びから始まり、機器、取引先を決め、スタッフをゼロから採用したりと、何から何までやらなければいけないのは大変すぎます。私には到底できたものではないと、早々に新規開業は選択しから消えました。
それに加えて、私は勤務医をしながら動物病院ではない他のビジネスをやってみたいと考えていたので、それも承継を選択した理由の一つです。副業でやるなら、ゼロから始めるのではなく、既存ビジネスのモデルや顧客を引き継ぐのが良いだろうと思っていました。その考えを動物病院に当てはめたら、最初からスタッフ、患者さんがいてくれて、よほどのことがない限り、次の日から売上がゼロになることがないという魅力に気付きました。
開業準備も開業後の運営も、新規よりずっとスムーズに進められるのではないかと考え、承継開業に絞ることにしました。
駆け抜けた開業までの道のり
―今回、個人が買うには売上規模が大きい病院を譲り受けたと思いますが、病院選びではどのような点を重視しましたか?
性格上、暇が嫌なので、最初から忙しい環境でスタートできるだろうと売上規模が大きい病院を中心に見ていました。
別の理由として、売上がしっかりある病院のほうが動く金額が大きいので、うまくやれば経済的な自由が効きやすいのではないかと考えたことも影響しています。
―もともと獣医師が2名体制で診察していた病院を、1名で受け継ぐことに不安はありませんでしたか?
もちろんありました。でも、そんなこと言ってる場合じゃないなと思いました。年齢的に体はいくらでも動くし、何とかなると自分に言い聞かせていました。
承継後に患者さんが離れてしまうこともあるだろうと思っていましたが、それは仕方がないこと。覚悟を決めてやるしかないと腹を括っていました。
―売り手様との交渉はスムーズに進みましたか?お互いの歩み寄りが必要な場面はありましたか?
とてもスムーズだったと思います。
まずご見学前に関しては、「自分が持っている資産はいくらなので、このくらいの自己資金なら出せます。開業資金の借り入れはできますか?」とアドバイザーの藤堂さんに確認しただけで、病院のチョイスはほとんど完了したと思います。
譲渡価格の提案があった後は、古くなっていた機器の分だけ価格の交渉をさせていただきました。
ご見学のタイミングで私は早く決めたいと思っていたし、院長先生も早く引退したいというお考えでしたので、スピード感がちょうど合っていたのもスムーズに進んだ要因の一つです。
もしかしたら裏で調整してくれていたのかもしれませんが、私としては何事もなく決まった印象です。
―これまで開業された方から、書類の準備が大変だとよく聞きますが、そのあたりはどうでしたか?
正直、二度とやりたくないですね。(笑)
働きながら、休診日や有給を使って「今日はあれしないと」「ここに行かないと」ばかりで大変だったのを覚えています。でも、スピード感がありすぎて細かい事は正直あまり覚えていません。
その中でも、立つ鳥跡を濁さずという意識はもって、勤務していた病院にはできる限り迷惑をかけないように進めていました。
―事業承継では一般的に、スタッフの引継ぎが難しいと言われますが、実際はどうでしたか?
もともとは、正社員2名とパート1名の動物看護師の方がいらっしゃったのですが、承継前に正社員の方が1名退職されてしまったのが、大きな懸念材料でした。
しかし幸運なことに、動物看護師の学校に連絡したら看護師さんをご紹介いただいて、無事開業までに採用をすることができました。
経営者として、スタッフさんが辞めるのを止めることはできないので、そうなってしまった場合にどう動けるかが大切だと思います。
現在は正社員を増やさず、短時間勤務のパートさんを増やす方針にしています。今いる看護師さんたちも色々なタイプの人がいるので、楽しんで働いてくれてると思います。飼い主様からも「雰囲気が明るくなった」と嬉しいお言葉をいただいています。
そうした雰囲気作りに加え、待遇面も見直しました。給与を上げたり、ボーナスを出したり、働く環境を整えることは大事だと実感しています。
―譲り受け後の病院を成長させるために意識したところは?
前提として、自分たちで成長させられる病院を選ぶことです。具体的に言うと、売上と場所を意識しました。
売上は前述したとおり比較的大きいところを選ぶようにしたのと、場所に関しては、周りの病院に若い先生がいないという点がポイントでした。
また、承継が決まってから実際に経営者が変わるまでの期間は、できる限り病院に顔を出すようにして、飼い主様に覚えてもらえるようにしました。
2年目からが真の実力勝負!1年経って分かること
―事業承継のプロセスを振り返り、うまくいったところ、いかなかったところはありますか?
全体的にはうまくいっていると思います。しかし正直に言うと、もっと売上を伸ばせたかなと感じています。
うまくいかなかったこととしてこれから開業する方にお伝えしたいのは、前の院長先生の売上を気にしすぎるとあまり良くない、ということです。
今までスムーズに出来ていたオペも手こずるなど、診療そのものにも影響が出てしまった経験があります。
一方で、前の院長先生が積み上げてきた診療スタイルや工夫には学べることもあります。自分のスタイルを大切にしつつも、良い部分は柔軟に取り入れていく姿勢が大事だと思います。
また、実際に開業して以降、土地柄を知ることも意外と重要なのではないかと思っています。診療に対する飼い主様の考えが地域によって違うような気がしており、もしその地域の飼い主様と合わない方針を持ってしまったら、「あの先生はこうしてくれたのに…」と苦言をいただいたり、なかなか患者さんの数が伸びなかったりするはずです。
もう院長になってから1年ほどが経つので、前の院長先生や周辺の病院と比較されることはほとんどなく、私のスタイルを理解していただいている飼い主様に支えられているなと感じています。
―今の経営状況はどうですか?
欲を言えば、この1年で、あと1割くらい売上を伸ばしたかったです。今はそこそこ良い感じですが、大事なのは今後だと思っています。
承継してすぐ経営が大崩れすることは少なく、1年目はまだ、自分の実力が現れる期間ではないと思っています。承継前から通ってくれていた飼い主様のうち、「この人でもいいか」と思って来てくれた方が支えてくださいました。逆に、承継を機に離れてしまったのは、人間どうしの相性の問題であり、診察とは違う問題だと考えています。
現在は、私と相性の良い方が残ってくれている状態ですので、ここからさらに病院を良くできるかどうかは、私の腕にすべてが懸かっていると思います。
―今後の取り組み、目標を教えてください
売上に関しては現在の1.5倍を目指していきたいです。
伸びてきたら他にも事業を広げていきたいと考えていて、例えば老犬ホームや、犬と一緒に過ごせる福祉施設などをやりたいですね。動物を軸に、何か他にできることはないかと考えています。
―今回の事業承継のおいて、A-BRAINは先生にとってどのような存在でしたか?
私の人生を変えてくれました。
私自身すぐにでも開業したいと思っていましたが、一人ではこんなにスムーズにはいかなかったと思います。
他の仲介業者の方にも相談していましたが、A-BRAINさんとの相性がよく、スピード感をもって進められたのが良かったです。
また、事業承継だけでなくホームページの作成を手伝ってくれたのも助かりました。忙しい開業準備の間に色々な会社さんにお世話になるよりも、一つの相談先で完結できるのはとても助かりました。
藤田先生からのメッセージ
―開業を考えている獣医師に一言お願いします。
やりたいなら、やってみたら良いと思います。
うまくいくかどうかは、やってみないと分かりません。
これから先、勤務医だけでやっていくのは難しい時代になってくると思うので、自分の実力を試すつもりで、覚悟決めてやってみるのが良いと思います。
大きい金額を借りると休めないので、開き直って元気にならざるを得ません。
覚悟を決めたら、あなたにもできると思います。
藤田先生の覚悟が伝わりましたね。
「やってみないと分からない」から一歩踏み出した藤田先生だからこそ、成し遂げた開業なのだと感じるインタビューでした。
藤田先生の体験からも分かるように、大切なのは最初の一歩を踏み出すこと。「やってみる」ことで新しい可能性が広がります。

