動物病院を継承すると決めたら、失敗を恐れない

目次
・動物病院における「選択と集中」
・経験を積み、動物病院開業へと踏み出した準備
・熱意ある若き獣医師に継承する、動物病院の次の一歩
・メッセージ
《 売り手:鴨田様 》
動物病院経営における「選択と集中」
―フジフィールド株式会社の事業内容について教えてください
これまで、当社は大きく3つの事業を展開してきました。
1つ目は動物病院事業、2つ目は往診事業です。
往診事業については、一般的な個人宅への訪問ではなく、人が集まる場所へ出向くスタイルをとっています。
3つ目は動物医療に関わる商品の仕入れ・卸事業も行っています。
―いくつもの動物病院を含めた複数事業を動かす経営者として、今回、にしのみや動物病院の譲渡を決断した背景を教えてください
一言で言うと「選択と集中」です。
これまで動物病院事業を展開してきましたが、動物病院を構え、来院を待つという従来のモデルについては一度クローズし、新しい仕組みに切り替えたうえで再スタートしようと考えていました。そのため、従来の動物病院をクローズする手段として、今回は事業を譲渡する決断をしました。
―継承するお相手を選ぶうえで、特に重視したポイントがあれば教えてください
やる気をもって頑張ろうと思ってくれる方が良かったのは大前提として、私のように獣医師ではないオーナーよりも、どちらかと言えば個人獣医師のほうが良いなと思っていました。
―今回は売り手としてのM&Aでしたが、過去には買い手としてご経験もおありだと伺っております。動物病院を経営する企業として、M&Aに対するお考えをお聞かせください
当初はM&Aによって運営する動物病院の数を増やし、事業を拡大していくことも考えていました。
しかし、実際に運営してみると、オーナー自身が獣医師ではないという点に大きな課題を感じました。獣医師であれば、自ら診療に立ち、技術や専門性によって病院の価値を高めることができますが、経営者が獣医師ではない場合は人を雇う必要があり、どうしてもパフォーマンスに限界がありました。
今後、会社を大きくする方法として、「仕組みを整えることが必要だ」と考えたとき、その手段としてM&Aという選択肢があるのはとても良いことだと捉えています。もし事業をクローズするときに、動物病院自体もクローズ、つまりは店舗を閉院することもできますが、閉院をしてしまうと、これまでご来院いただいていた飼い主さんにまた新しい病院を探すことを強いてしまうわけです。我々の都合で飼い主さんにご負担やご迷惑をおかけしないために、継承してくださる方がいらっしゃるのなら、そうしたいと考えていました。
《 買い手:吉田先生 》
経験を積み、動物病院開業へと踏み出した準備
―ご経歴を教えてください
大学で産業動物の研究室に所属していたこともあり、卒業後半年は長野県で牛などを診療していました。
しかし、僕には大動物が合わないと感じ、小動物に移るために元々住んでいた名古屋に戻って来ました。それから4年間、名古屋では1.5次の動物病院で働いていました。
ここ1年は、開業を見据え、経験を積むための「修行期間」と位置付けていろいろな挑戦をしてきました。4年間お世話になった動物病院を退職し、名古屋の夜間動物救急センターに転籍。加えて、退職した病院でも日中にアルバイトとして働いたり、他にも名古屋の大きい動物病院で週1でアルバイトをするなど、「経験できるものは何でも吸収する」くらいの勢いでたくさん働きました。
―開業を決断した背景を教えてください
勤務医として働くなかで、このまま勤務医を続けていくことに少しずつ限界を感じるようになりました。
また、獣医師としては、30代後半から40代前半が一番力を発揮できる時期だと思っています。そのタイミングまでに開業し、自分の動物病院を成長させ、いずれは経営層になりたいという思いがありました。
勤務していた動物病院は、国内でも規模が大きく、福利厚生なども整った環境でしたが、それでも大きい動物病院なりの課題も多く、このまま勤務医として働き続ける未来が自分には想像できませんでした。これほど立派な動物病院でさえそうであれば、勤務医である限り、どこに行ってもおそらく同じです。
それなら、自分で責任もってやってみようと考え、開業を決断しました。
―継承する動物病院はどのような条件で探していましたか
継承するのであれば、「しがらみが少ない」ことを重視していました。
承継開業には、開業時から飼い主さんがいることや、新規開業と比べて初期投資を抑えられるケースもある、といったメリットがあります。
一方で、前任の院長先生が長く診療されていた場合、前任と後任の間で治療方針や考え方にギャップが生じやすく、飼い主さんやスタッフとの関係づくりに苦労するケースも多いと、先輩方から聞いていました。問題が起きないようにするためには、前任の院長先生のやり方に合わせなければいけない。そういった「しがらみ」に窮屈さを感じないよう、自分の方針で病院づくりができる環境を求めていました。
その上で、可能な限り設備投資を抑え、借入の負担を減らせるような動物病院だとなお良いと考えていました。
場所については、全く知らない土地ではなく、自分が住んでいた愛知・岐阜、あるいは実家のある兵庫・大阪エリアを中心に探していました。
―新規開業も考えていたと伺いました。既存の動物病院を継承すると最終的に判断した理由を教えてください
一番大きかったのは、新規開業と比べてリスクの大きさが違うと感じたからです。
ここ数年で新規開業された先生方の話を聞くと、初期投資や借入の負担が大きく、開業当初は経営的にかなり厳しいケースも少なくないようです。また、新規開業は飼い主さんがいない状態からのスタートになるため、最初の1~2年は特に不安が大きいと感じていました。
一方で、既存の動物病院であれば、設備や立地といった基盤がすでに整っており、初期の金銭的負担を抑えながらスタートできる点に大きな魅力を感じました。
ただ、僕の場合、新規と継承を比較し、継承に絞ったうえで病院を探していたわけではありません。両方の選択肢をもちながら探していたなかで、ご紹介いただいた病院が運よく希望にあっていたので、結果的に継承を選択することになりました。
―新しい挑戦には、期待と同時に不安もあったのではないかと思います。具体的にどのような場面で不安を感じましたか
不安はもちろんありました。
特に大きかったのは、融資の部分です。
融資の条件を満たすために兵庫へ引っ越す必要があったので、審査結果が出る前に名古屋での仕事を辞め、引っ越しを決めなくてはなりませんでした。
それに加えて、融資が通るかが譲渡直前まで分からない状況でした。
予定した日付に継承できるのか、という点もさることながら、もし審査に通らなかったら、引っ越ししただけで職を失った状態になるので、結果が出るまでの期間は精神的に大変でした。
その他には、継承した後のことを考えるときも、自分の体力が持つのか、飼い主さんに来ていただけるのか、といった不安もありました。
ただ、それも含めて自分で引き受けると決めて一歩を踏み出しました。
―これまでのお話を伺っていると、開業に向けて覚悟を持って準備されていた印象があります。実際に修行期間に学んだことや、独学で勉強されたことがあれば教えてください
開業前の1年間は夜間救急で働きながら、週2,3日は昼の病院でも勤務していました。これだけやっておけば、開業後週6,7日働くことになっても問題なくやれると思えた経験はして良かったです。
集客についてもWebマーケティングを学んだり、勤務している動物病院で実践しながら教えてもらったり、あるいは、夜間救急でのつながりを通じて、近い世代の院長先生から話を聞くこともありました。さらには、先輩獣医師の紹介で集客コンサルタントに相談させていただくなど、自分がやれることは全てやったと思います。今は「これでもうまくいかなければ仕方がない」、そう腹を括っています。
鴨田様×吉田先生
―トップ面談での印象はいかがでしたか
鴨田様:第一印象は「若いな~!」と思いました(笑)
ただ、実際にお話をしてみると非常にしっかりしている印象で、この人ならにしのみや動物病院を大きくしてくれるなと感じました。
吉田先生:関西に帰ってきたなという感覚でした(笑)
私が関西出身なので、関西らしいイケイケの年上の方だなと懐かしさを感じたのを覚えています。
―吉田先生に決めた理由を教えてください
鴨田様:第一印象から、もう吉田先生にお願いしたいと思っていました。
さらに最近は仕事も辞めて、生活拠点もこちらに移し、まさに背水の陣で我々の病院を継承しようとしてくれている。
そこまで覚悟を決めて飛び込んできている姿を見て、この人なら信じられると思いました。
若いのに、ここまで腹を括って挑戦する勇気がある。その心意気に病院を託したいと思いました。
―にしのみや動物病院を引き継ぐと決めた理由を教えてください
吉田先生:価格面でも無理がなく、しがらみも比較的少ないと感じられました。「自分なりの工夫次第で病院の価値を高めていける」という、自分が院長として働く未来の姿を想像ができたことが大きな理由です。
熱意ある若き獣医師に継承する、動物病院の次の一歩
―譲渡契約書締結後の今の素直なお気持ちと、今後に向けた想いをお聞かせください
鴨田様: ひとつ区切りがついて、前に進めたなという気持ちです。
これから吉田先生が、どれだけ動物病院を成長させていくのかが楽しみです。ぜひ、1年後くらいに、またお話を聞かせてもらいたいと思っています。
吉田先生:決まらなかったらどうしようという不安が大きかったので、まずは譲渡が決まってほっとしています。
ここからは、やれることを一つひとつやるしかないと思っています。経営は机に向かって学んできたものもありますが、そこで知ったことと、実際に行うことは全く別の話です。未知の領域で分からないことだらけですが、若さを武器に全力で取り組んでいきたいです。
―これからどのような動物病院をつくっていきたいですか
吉田先生:しっかりと検査を行い、その上で適切な治療ができる動物病院にしていきたいです。
最新の獣医学的知見も積極的に取り入れながら、この地域に住む飼い主さんと動物たちに、私が提供できる最善の獣医療を届けたいと思っています。
そういった診察を積み上げた結果として、「皆がハッピーになれる動物病院」を目指したいと考えています。
飼い主さんが大切な家族をこの動物病院に連れて来て良かったと思えることはもちろん、働くスタッフにとっても、無理なく続けられる環境をつくりたいです。
動物病院がきちんと利益を出せば、給与や休日、待遇といった形で還元できると思うので、ネガティブな理由で人が辞めない動物病院にしていきたいと考えています。
そして、先ほども述べましたが、将来的には動物病院の規模を少しずつ大きくしていきたいです。
設備や人員が整っていないことで、できる治療が限られてしまうのは悲しいので、より幅広い医療を提供できるよう体制を整えていきたいと考えています。
―これから院長として歩んでいく吉田先生に今、伝えておきたいことはありますか
鴨田様:とにかくがむしゃらに頑張っていってほしいです。
経営をしていると、思い描いた通りに進むことはそう多くはないと思います。
何か想定外のことが起きて、現状を変えなくてはいけないとき、考えているだけでは何も変わらないものです。やはり、実際に行動したことだけが結果を変えてくれます。
吉田先生はまさに今、「動物病院を買う」という行動をとってご自身の人生を変えたわけです。この勢いそのままに、これからもどんどんチャレンジして、動物病院を成長させていってほしいと思います。
吉田先生:分かりました!チャレンジしていきます!
―A-BRAINのご支援はどのように役立ちましたか
鴨田様: 吉田先生をご紹介いただきありがとうございました。
こちらの考えや状況をきちんと理解したうえで、つないでいただけたと感じています。
吉田先生:連絡がいつでもすぐ返ってくるのは助かりました。分からないことだらけでしたので、すごく頼りになりました。ありがとうございました。
◎ メッセージ ◎
―動物病院の譲渡を考え始めている経営者の方へ
鴨田様:動物病院の譲渡といったらTYL!
我々もすでに何件もやり取りさせていただいており、他の業者と比べて、サービスと費用が一番合っていると考えています。ご自身に合った仲介業者を見つけ、サポートをもらいながら着実に譲渡を進めていただければと思います。
―開業に踏み切るのに迷っている獣医師の方へ
吉田先生:迷っている気持ちがあるのは自然なことだと思います。
ただし、開業は覚悟が必要なので、決めきれないのであれば無理にする必要はないとも思っています。
もし開業すると決めたなら、必ずそうする前提で行動を起こしてください。一度決めたなら、あとはゴールに向かってひとつひとつ進めていくだけです。スキルが足りないと感じるなら、どこで働き、どのような研修を受けるべきかを考える。情報が足りないなら、実際に話を聞きに行く。
考えているだけでは何も始まらないので、とにかく行動することが大事だと思います。
担当者からのコメント

まさに事業家としてのDNAが、にしのみや動物病院を通して、鴨田様から吉田先生へ「継承された」と感じる対談でした。
吉田先生は、開業に向けて着実に進んでこられた冷静な計画性と、それを実行するだけの体力的、精神的な強さから感じる熱意が印象的でした。
鴨田様が語られた「この人なら信じられる」という言葉は、偶然の産物ではないと思います。
今回のM&Aをきっかけに、フジフィールド株式会社、吉田先生の両者が、次のステージでご活躍されることを切に願っております。
そしてまた、このインタビューも、動物病院の継承を検討されている一人でも多くの方の背中を押すことになれば幸いです。